『ジュラシックワールド/新たなる支配者』虫も人間ドラマも要らんので人間バイキングを見せろ【ネタバレ感想】

ジュラシックワールド/新たなる支配者』は、『ジュラシックパーク』から数えて6本目の、ジュラシックシリーズ完結編と銘打たれた映画である。

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映画『ジュラシック・ワールド/新たなる支配者』公式サイト

というか私がジュラシックパーク3作品とジュラシックワールド3部作の世界線がシリーズと呼べるほど明確に繋がっていると知ったのは、『ジュラシックワールド/炎の王国』(2作目)のラストに『ジュラシックパーク』に出ていた数学者イアン・マルコムが登場したからだ。これが1作目からの構想なのか、それとも後付けなのかはわからない。

ジュラシックパーク3作品と違い、ジュラシックワールド3部作のストーリーは明確につながっており、今作から観た人は恐らくキャラクターの人間関係が掴めないだろう。私自身、ジュラシックワールドの前2作は映画館で観たが、ストーリーの細かい部分は忘れてしまった。しかしそんなことは些末なことだ。ジュラシックシリーズの主役は人間でなく恐竜なのだから。
そう思っていた頃が私にもあった。

思えばジュラシックワールドは1作目から様子がおかしかった。ジュラシックパーク3作品に出て来る恐竜は、その後になって生態が変更されたりはしたが、少なくとも過去に地球上に存在した恐竜だった*1。しかし『ジュラシックワールド』で、人類はとうとうハイブリッド恐竜を作ってしまう。
ティラノサウルスヴェロキラプトルを主に組み合わせたインドミナス・レックスだ。何だその人気のやつと人気のやつを1つにしたらもっと良いだろうという短絡的なアイデアは。しかも生物の体温を赤外線で感知可能、擬態能力で身体の色も変えられるという盛りすぎ設定だった。

現実世界ではまだ遺伝子組み換え大豆が身近になった程度なのに、ハイブリッド恐竜を作ってしまった。途端にトンデモSFの世界に引きずり込まれる。
ジュラシックパーク』のそもそもの魅力は、「琥珀に閉じ込められた恐竜の血を吸った蚊の体内から恐竜のDNAを取り出し恐竜を蘇らせる」という、(よくよく考えれば不可能な話だが)「ありそう」と思わせてくれたリアルさだったと思う。そこを最初から崩してきたジュラシックワールドシリーズの幕開けだった。

ジュラシックワールド1作目と2作目の解説はしない。何故ならほぼ忘れたからである。
1作目で記憶しているのは、デカい口叩いて自分でヘリを操縦した結果なぜかヘリを墜落させプテラノドンを世に放ったCEO(本人は死んだ)と、そのプテラノドンに攫われピタゴラスイッチみたいにモササウルスの餌食になった秘書がいたことだ。それまでのジュラシックシリーズに海棲爬虫類*2はいなかったので、モササウルスは見応えがあった*3

2作目は冒頭のモササウルスのシーンと、クライマックスでインドラプトル(またしてもハイブリッド恐竜。このネーミングは何なんだ)が郊外の裕福な邸宅に住む少女を襲うという、監督はこれが撮りたかったんだなという映像だけが頭に残っている。

さて、そんな前2作を踏まえての3作目だが、さすがにハイブリッド恐竜のネタはもう使えないと思ったのかもしれない。代わりに白亜紀のDNAを組み込んだ蝗を出してきた。
イナゴだ。しかもサイズが約4〜50センチ。だいたい大人の前腕ほどの全長で、胴囲も同じくらいある。それが大量にスクリーンを埋め尽くす。はっきり言って怖い。恐竜の怖さより身近な、嫌悪に近い怖さだ。
この映画で1番インパクトがあったのがこの白亜紀DNA入り特大イナゴで、次にフィーチャーされていたのが人間で、3番手が恐竜だった。もうジュラシックワールドというテーマパークの話でもないし、何なら既にジュラ紀も関係ない。

映画は巨大イナゴの登場から始まり、前作で人間初のクローンと判明した女の子が遺伝子研究で暴利を貪ろうとする会社の陰謀によりベータ(ブルー*4の子供*5)と共に攫われ、女の子(とベータ)を助けるため主役たちが奮闘するという、ミッションインポッシブルに恐竜を添えて〜劣化版〜みたいな展開だった。

ジュラシックパーク』に登場したアラン・グラントとエリー・サトラー、イアン・マルコムはイナゴ繋がりで巻き込まれるのだが、この映画の見どころは、『ジュラシックパーク』をテープ(※VHS)が擦り切れるほど観た人にとっては恐らくこの3人だけだと思う。つまり私だ。
しかしその私を以てしても、劇中のシーンでも『ジュラシックパーク』へのオマージュ、何より『ジュラシックパーク』を観ていた人への目配せがすごいなと苦笑してしまった。ほら、この人たち、懐かしいでしょ? ほらこのシーン覚えてる? あのシーンのオマージュですよ、ねえねえ! と言われているような気がした。
そして観ながら思った。この3人の俳優の功績ももちろんあるだろうが、『ジュラシックパーク』の面白さは、アニマトロクスやCGで再現されたリアルな恐竜が人を襲うという(当時としては)新しい視点にあったのだ。決して恐竜を差し置いて人間が前に出て来るべきではなかった。況やイナゴをや。

そしてイナゴの存在が、この映画を観るのにおいて旧約聖書を必修科目にしている。出エジプト記において十の災いにイナゴが出て来ており、劇中でも引用されているからだ*6

今回も雰囲気で理解した

終盤ではこの巨大イナゴの群れを焼却処分しようとするが何故かイナゴは全滅せず、空気孔から燃えたまま群れで逃げ出し、周りの恐竜がいる森の上を飛び回っては燃えたまま降って来るという、前作のプテラノドンより劣る迫力の画が繰り広げられた。
このことについてSNSで「恐竜絶滅の通説である隕石をオマージュしているのでは?」という意見を目にしたが、恐竜たちは割とあっさりと難を逃れるし、実質的に被害を被るのは人間である。

正直、この映画は何を見せたかったのかわからない。恐竜をダシにして「人間はいつまでも滅亡の危機に目を向けようとせず愚行を続ける」と言いたかったのなら正しく伝わっていると思う。期待したものが見られなかったという落胆はあるが。
しかも自戒を込めた映画にしたかった割にはラストで「恐竜と人間は共存できる」で終わって、馬と走るパラサウロロフス、鳥の群れに混じるケツァルコアトルス、ザトウクジラと戯れるモササウルスを映していた。
馬とパラサウロロフスはまだいい、パラサウロロフスは草食恐竜だからだ。
しかし、まずケツァルコアトルスだが、顔だけで2メートル近くあり、全長にして10メートルを超える巨大な翼竜で、奴らにとって現代に生息する鳥類のだいたいはひと口サイズである(ちなみに個人的に最推しの翼竜だ)。

そしてさらに危ないのがモササウルス。現在判明している最大サイズよりも規格外にデカいこの世界のモササウルスは、ジュラシックワールド1作目では軽食にサメ、おやつにプテラノドン、箸休めに人間を食べ、尚且つメインディッシュにインドミナスレックスを美味しく頂いた大食漢なのだ、この世界では間もなく鯨類は滅びる。

恐竜と人間は共存の道を探れるかもしれないが、恐竜と現代の地球の生態系の相性は最悪だと思うのは私だけだろうか。

何より今回、恐竜により命を落とした人間が極端に少なかったのが残念だった。記憶にある中で明確に恐竜によって食い殺されたと言えるのは2人だけだと思う。連続殺人犯だってもう少し多く殺すだろう(変な日本語)。
不謹慎であることを承知で言うと、ジュラシックパークシリーズはひょいひょい人が食い殺されるのが面白かったのだ。
毎回*7、大して思い入れのないキャラが恐竜の圧倒的な力に襲われ、ガブーッと食われるのが醍醐味だった。新しい恐竜が出てきて、カジュアルに人を襲って食うのを見るのが楽しかった。
ジュラシックパーク3』でスピノサウルスに食われた人が持っていた携帯電話の着信音がスピノサウルスの腹の中から聴こえてくるとか、最高の演出だった*8

だが、『ジュラシックワールド』になって恐竜を家畜化(調教)可能な設定にしてしまってから少しずつつまらなくなっていった。レーザー照射で標的の匂いを覚えて必ず殺すラプトルとか、便利に使われ過ぎていて萎えた。恐竜をコントロールしようとした人間は等しく恐竜に食われて欲しかった。

またこれはジュラシックシリーズ通して抱いていた不満だが、毎回人間の前に立ちはたがるのが肉食恐竜だけというのが気に食わなかった。ケツァルコアトルスの嘴に貫かれて死ぬとか、パラサウロロフスに蹴られて死ぬとかやって欲しかった。
何より、今回の映画で登場したテリジノサウルスは草食恐竜だが、前脚の爪が70センチほどもあるとされている。この爪に人がサクッとやられなくてどうしろと言うのか。

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テリジノサウルス/Wikipedia より

実際、恐竜同士のプロレスはまあ悪くはなかったが、メインの人間のモラルについての長々とした独白(特にウー博士)はひたすらどうでもよかった。

最も見たかったのは恐竜の人間(がメインディッシュの)バイキングだった、と言うと、どうしても人でなしに聞こえてしまうが、これが偽らざる本音である。

 

*1:ジュラシックパーク3』に登場するスピノサウルスは劇中ティラノサウルスの首に噛みついてへし折るが、その後の研究で主食は魚でありティラノサウルスの首を折るほどの顎の力はなかったであろうと推測されている。

*2:恐竜マニアあるあるだが、「恐竜」と呼ばれるのは陸上で棲息していた種だけで、海で棲息していた種は海棲爬虫類と呼ばれる。『ドラえもん のび太と恐竜』に出てくるピー助はフタバスズキリュウ(海棲爬虫類、いわゆる首長竜)なので恐竜ではない。

*3:製作サイドはモササウルスのサイズ感がどこかでバグったらしく、3部作を通してモササウルスが化石から推測される全長の倍はある。
と思っていたら、この記事によれば製作総指揮のスピルバーグが「もっと大きくしよう」と言った結果らしい。スピルバーグのせいだったのか。

*4:ジュラシックワールド』から登場した、ある程度意思疎通が出来るという設定のヴェロキラプトルヴェロキラプトルは『ジュラシックパーク』で人を群れで襲い、人が逃げ込んだ建物のドアを開けるなど賢い捕食者として観客を震え上がらせたが、悪役で出てきた奴が味方になるヒーロー物みたいに『ジュラシックワールド』で突然キャラ変した。

*5:ジュラシックパーク』以来、DNA操作により復元された恐竜は全てメスである(繁殖させないため)というのが基本だが、損傷したDNAを別の爬虫類や両生類のそれで補った結果、メスだけの集団でいると一部がオスに性転換するとか、単為生殖が可能とかウルトラCで必ず繁殖する。ブルーの場合は単為生殖だが、前2作でブルーが単為生殖可能という話はなかった気がする。というか人間も敵わない肉食の動物を単為生殖可能にしたらアカン。

*6:気になる方は、「十の災い」で検索。ちなみにイナゴが出て来るのは8番目。

*7:ジュラシックパーク』、『ジュラシックパーク3』にサム・ニール(アラン・グラント博士役)が出演している例外はある。

*8:鳴っていたのはNOKIAの携帯電話のデフォルト着信音で、アメリカで携帯電話を持った時に「あの着信音…!」と震えた。