トップガン マーヴェリック【ネタバレ感想】

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映画『トップガン マーヴェリック』公式サイト

 

以下すべてネタバレです。(ふせったーからの転載)

 

トップガンマーヴェリック、訓練中にルースターがマーヴェリックと戦闘機で地面スレスレのチキンレースを始めた時にハングマンが言った「あの二人なんなんだ?」ってセリフが二人の過去を知らない人には本当それって感じで深く頷いてしまう。
普段はマニュアルに忠実で、一緒に出撃しても燃料切れになると揶揄われるほど慎重派なはずのルースターが我を忘れてアレをやったんだから本当にマーヴェリックとどういう関係?!ってなるよねわかる

 

・ルースターは自分の父親がマーヴェリックのせいで死んだと思ってないと思うし、恨んでもいないよね。そもそもマーヴェリックに突っかかるのは自分が出した海軍兵学校への願書を勝手に破棄したからだとフェニックスにも言ってるし。

マーヴェリックに「俺は父のようにはならない」みたいに言ったのは完全にマーヴェリックの急所を敢えて突くために言ったはずで、遺恨が残ってるのはやっぱり願書の破棄のことなんだろう。その理由は(ルースターの母の頼みだったとはいえ)マーヴェリックがルースターに言うのは「君は未熟だったから」なんだけど、多分マーヴェリックにとってルースターは自分のせいで死んでしまった親友の息子、あの時の子供のままで、だから危険な任務にも飛ばせられないと思ってて、アイスマンに話す時もルースターのことをkidと呼んでいる。kidは自分より年若い人を呼ぶ時にも使うけど、マーヴェリックにとっては本当に子供で、守るべき存在のまま。
マーヴェリックのそういうところもルースターには腹立たしかったろう。グースの死後、もしルースター(ブラッドリー)とマーヴェリックとの関係が薄かったなら、きっと願書破棄されてもあんなに怒ったりしないんじゃないかと思った。多分めちゃくちゃ親しい関係で、家族くらい近くて、だからこそ進路を邪魔された、その理由すら説明してもらえなかったという事実に、愛していたからこそ猛烈に怒ってる。
ルースターにとってマーヴェリックは、海軍に入ってトップガンも卒業した自分を永遠に子供扱いする存在で、もしかしたら1番大人扱いして欲しい人で、何より多分、一生追いつけないと思っている相手。
マーヴェリックがルースターを僚機に選んだのは、アイスの「It’s time to let go.」がマーヴェリックの背中を押したことは間違いなくて、過去から1歩踏み出して、マーヴェリックにとっては自分の命に代えてもルースター含め若いパイロットたちを生きて帰す決意の下の任務で、ルースターにとっては自分の(任務において)不必要な慎重さという殻を破る必要がある任務だった。
ルースターのブレイクスルーという意味では、マーヴェリックから遅れていたところから機体を加速させ、追いついて、レーダーが不具合でもミサイルを落とし命中させた、という点で成就している気がする。マーヴェリックと同じ、あるいはより困難な状況下で”奇跡”を起こしたと言える。
一方マーヴェリックにとってそこはまだ通過点で、全員生きて帰したかった。だからルースターを守って撃墜された。最悪、編隊がマーヴェリックを喪って帰投しても、戦闘機乗りにとっては任務成功を意味したはずだ。
でもルースターにとっては終わりじゃなかった。教本に忠実に、慎重に飛んでいた自分の更に前を飛んでいたマーヴェリックを、ようやく追いつけたマーヴェリックを喪えなかった。だから帰投せずマーヴェリックを守って、自分も撃墜された。

けれどあの森を走るマーヴェリックは胸が潰されそうだったに違いない。あの空を降りていくパラシュートが、あの日のグースの姿に重ならなかったはずがない。だからパラシュートを回収してるルースターがピンピンしてるのが視界に入った時にはきっと嬉しかっただろうけど、その後に湧き上がったのが怒りだったんだろう。
マーヴェリックが全力疾走のスピードのままルースターを突き飛ばした時に、二人を包んでいた殻は破れて、お互いに初めて感情をぶつけ合ったんだと思う。全力で怒ったマーヴェリックにルースターも全力で怒って言い返したし、マーヴェリックは自分の言葉がルースターに伝わって結果的に自分を守ってくれたとわかった。何より二人とも生きている。というか、ルースターが墜落するマーヴェリックを見て”考えずに行動”したのが自分を省みずマーヴェリックを守ることだった。
守るものと守られるものが逆転した瞬間に二人は相棒になったから、敵地からの脱出にあたってルースターは何の臆面もなく自分より経験値の高いマーヴェリックに「で、どうする?」と訊けたんだと思うし、その後F14を見つけて分捕る時にもめちゃくちゃ良いコンビネーションを発揮したんだと思う(ここのシーンでマーヴェリックの後をぴょこぴょこ付いて歩くルースターが可愛かった)。
コンビネーションという意味では第5世代戦闘機と鉢合わせた時に消極的な手を取ろうとするマーヴェリックにルースターが「ここに俺の親父が座ってたら?」(※字幕だと『1人なら?』だけどここ字数の問題のせいでニュアンス違っちゃったんだと思うんだよなあ)と訊いてるのが最たるもので、少しだけ逡巡したマーヴェリックが一気に攻撃態勢になったのが二人の信頼関係を物語ってると思った。

だからマーヴェリックがいよいよ打つ手がないと悟って言う「すまない、グース」っていうひとり言が本当に哀しくて、だから最後良いとこ持ってったハングマンは本当に良いキャラだよそもそもお前がルースターを煽ったんじゃねーか忘れてねーぞ。

 

トップガンマーヴェリックを家人と観に行ったんだけどマーヴェリックを敵地で襲ってくる戦闘ヘリが旧ソ連時代に開発されたハインドという軍用機であることが一目でわかったらしくならず者国家とボカしてるけどまぁそういうことよね…
ならず者国家って原語で何て言ってんだろ?と思って検索したらrogue stateでした。ミッションインポッシブルローグネイションを思い出してしまった

 

・ルースターのビーコン検知の直後にF14が向かってきていると知った空母の司令部で、操縦してるのはマーヴェリックだと最初に口に出したのがホンドーさんでもウォーロックでもなくサイクロンだったの忘れてないよ。
それにしてもF14飛んだ直後に自分のビーコン作動させたルースターマジ優秀。あれがなければ最悪敵機として空母から攻撃受けてもおかしくなかったのでは

 

・この映画、何がヤバいってトムクルーズと被るような年の取り方をしたマーヴェリックが訓練コースを2分15秒で飛ぶ時ものすごくキツそうに操縦してたとこ。軽々とやってるように見せない。
トムクルーズと言うとハリウッドのアクションスターで、年齢を感じさせない若々しさが売りだったはずなのに、マーヴェリックではキャラ=自分の年齢相応に見せている。
身体は絞っているし能力もあるし体力もあるけれど、年齢ゆえに海軍の中で煙たがれている様子も、顔に刻まれた皺も、若いパイロットたちとずっとアメフトやれるほどスタミナがない様も、前作で受けた心の傷から逃げ続けてきた事実も隠さない。もちろん長く生きてきたからこそ経験や強みもあるけど、一方で年経たが故の脆さや弱さも纏っている。

空を飛ぶことが何より好きだと自認しながらも、ふとした時に老兵の疲弊を覗かせる。出世することも、退役することも、空を飛ぶのをやめることもできず、どこか死に場所を探しているような不安定さがマーヴェリックにはあって、そのどこか退廃的な雰囲気が今までのトムクルーズが演じた役とは違う魅力だと思う。
いかに凄腕パイロットでも年は取るし、年を取ったからといって過去と上手く折り合いを付けられているわけでもない、その様をきちんと描いたところがこの映画でトムクルーズが見せた最も優れていることのひとつじゃないだろうか。

ペニーとの関係だってそう。ペニーの部屋の窓から逃げたら1階にいたアメリアと窓越しに目が合うシーンはマーヴェリックの気まずい表情も相まって笑いどころだし、映画館で2回観たうち両方とも笑いが起きてたけど、その後のアメリアの「もうママを傷付けないで」というひと言に、この子にとっては笑う所じゃないんだよなあと思った。
ペニーとマーヴェリックはくっ付いたり離れたりな付き合いぽいから、それまでも何度かそういうことがあって、ペニーはマーヴェリックには見せないけどアメリアはペニーがマーヴェリックとの関係で傷付いてたのを見てたんだろう。
アメリアに言われた後マーヴェリックが凍りついた表情のままその場を去るのは、自分のしてきたことを子供に指摘されて初めて、あんなことを言わせてしまった、という罪悪感や恥ずかしさに気付く大人の未熟さをも見せている気がした。

 

・マーヴェリックとルースターが敵地から逃げ出す辺りから2人の間でグースのことを蟠りなく話せるようになっているのがすごくよかったな。無線が使えないと言うルースターに「お前の父親の担当だった」とマーヴェリックが言うし、敵機2機と遭遇した時も、ルースターがマーヴェリックに「ここに座ってるのが親父だったら?」と訊く。
この2人の間ではグースはタブーじゃなくなったし、雪解けが来たんだなあと思って嬉しかった

 

・マーヴェリックはアイスに「ルースターを任務に選べば彼が死ぬかもしれない、選ばなければ彼は僕を許さないだろう、どちらにしても僕は永遠に彼を失う」と言ってたけど、文字通り自分の命に代えても失いたくなかったんだと思うと泣く。そんなのもう愛だよ

 

・マーヴェリックがルースターに「何で帰投してない?」と怒るところはまるで父が息子を怒ってるみたいだなぁと思ってたんだけど、それに加えてマーヴェリックはルースターの人生に自分がいなくなっても大丈夫だと思ってたのでは
と深読みして泣いているアカウントです

 

・自分はルースターを失いたくない、とアイスに言ったのに、ルースターが自分を失ったらどうなるかは考えてない。
だからあんたの教え通りにやったらこうなったみたいなこと(「考えるなって言ったろ」)ルースターに言われて一瞬ポカンとするんじゃないだろうか。ルースターが自分を必要としていることにこれっぽっちも思い至らないところがマーヴェリック(一匹狼)たる所以なのか


・これは完全に二次創作を書くための妄想なんですけど、海軍兵学校って17〜23歳の間で可能で、ルースターがマーヴェリックに出願を取り消されたのが17歳として、マーヴェリックがルースターの成年後見人だった場合もそうでなかった場合も、アメリカの成年は18歳(州によって違うけど酒タバコは21歳、それ以外なら18歳のはず)だから普通に翌年出願できたのでは…と思ったけどどうなんだろう。何で4年もかかったのか。で、色々調べてみたら海軍兵学校ってめちゃくちゃ狭き門らしくて、もしかしてルースターは最初に出願した時に合格したのにそれをマーヴェリックに取り消されて、その後何回も出願したのでは…?と思った。そりゃあんだけ怒るよな(そういう事実はない)。

 

・ケイン少将がマーヴェリックに“despite your best efforts, you refuse to die.”(最善の努力にも関わらず、死のうとしない)と言ってるのがすごい辛くて、少将から見てもマーヴェリックは死に急いでいるように見えるんだろうな…と思った。
引退してても、少将になっててもおかしくない、死なない任務に就いてても何ら不思議でない経歴のマーヴェリックがそれでも死の危険を伴う仕事を選んでいる感じがして哀しい。
マーヴェリックは任務で自分が死ぬ分には100%OKなんだよな。サイクロンとウォーロックに任務を説明された時も自分が行く心づもりでいたのに、そうでないと知ると激しく動揺する。
マーヴェリックは自分以外の命を死地に送るのが耐えられない。グースを失って以来、任務で自分以外の誰かが死ぬのを見るのが辛くて仕方ないんじゃないだろうか。自分が死ぬには全く構わないから命を賭けるのに、毎度生還してしまう。こんな哀しいことがあるだろうか。
実際、任務で自分が編隊長になった時、マーヴェリックは自分が帰らないだろうことを確信している。任務直前のマーヴェリックは完全に心ここに在らずで、精神がもうあの場にいないみたいな顔をしている。グースのところに行くつもりだったかもしれない。

そうやって30年以上死に急いでいたマーヴェリックを、そして今日ここが自分の死に場所だと決めてきたマーヴェリックを、この世界につなぎとめたのがルースターだったというのが本当に泣き所なんだよ…

 

・初めて観た時はマーヴェリックが撃墜された後、上官にも同僚にも「マーヴェリックは死んだ、諦めて帰投しろ」と頻りに言われたルースターは命令に従って帰投するんだろうなと思って観てたことを思い出した。だって教範通りに飛ぶのがルースターだと思ってたから。
だからマーヴェリックがハインド(戦闘ヘリ)に狙い撃ちされそうになった瞬間にハインドを撃墜したのがルースターだと分かった時、ものすごく驚いた。多分マーヴェリックと同じくらいびっくりした。
そしてパラシュートを見てグースのことを思い出して、だからあの森を全力疾走してるマーヴェリックは私だった。

ただ、だからって再会した途端ルースターをドーン!と突き飛ばすとは思ってなくて、普通に口喧嘩を始めるのを見て、ああこの関係性めちゃくちゃ好きだ…と思ったんだった。