Instagramで「#ボルダリング」で検索していると、時たまレントゲン画像が目に入る。
中には手術後の痛々しい処置後の画像を載せているアカウントもあり、Instagramはそこは弾かないんだ、と驚くと同時に、これほど多くの人が何故SNSにわざわざレントゲン画像を載せるのか、理解できないでいた。
しかし、確かにボルダリングは割とカジュアルに大怪我をするスポーツだ。
この1年で、ボルダリングジムで救急隊員に出くわした経験が2回ある(追記:その後さらに2回見た)。
あらゆるスポーツに怪我の危険は伴うが、ボルダリングには重力という地球最強の味方がいる。そして身ひとつで登るので、初心者にも上級者にも満遍なく怪我の危険は付きまとう。
そして一昨日、私はボルダリング中に右薬指から異音を聞いた。
パキッ、というか、バキッ、というか、なんかそんな音と共に第一関節が少し腫れて痛み、指に力が入らなくなった。考えてみれば先週のボルダリングで痛めた箇所であり、嫌な予感がした。
ボルダリングをやっていると、「指をパキッた」という話をよく聞く。指の筋腱や靱帯あたりを損傷することを総じてそう呼ぶらしく、私も最初は「ああとうとう私もパキッた…」と落ち込んだ。
Google検索したら、近くにスポーツ整体院を謳っているところがあったので、翌日行ってみた。
そして柔道整復師の人が私の指にひとしきり触って、こう言った。
「これ…折れてますね」
終
制作・著作
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ⓃⒽⓀ
愕然とした。
なぜなら私は、人生で1度たりとも骨折をしたことがないからである。それが今? 40も過ぎた今?
先週同じ箇所を痛めたと言うと、柔道整復師の人は「あーその時に少しヒビが入って、今回でトドメになった可能性ありますね」と言った。
既に夕方になっており、当然整形外科も閉まっている。仕方がないので、整体院でアイシングと電気治療と患部の固定だけしてもらって帰宅した。
お風呂には浸からず、シャワーすぐアイシングをしてくださいね、と言われたのでその夜はそのようにしたが、冬にシャワーオンリーは辛かった。
ひと晩、色々考えた。ボルダリングが数か月単位でできなくなるかもしれない。それはキツい。キツ過ぎる。
それ以前に、利き手の中指と薬指を固定された状態で日常生活を過ごすのはかなり難しい(そっちを先に考えるべきだったのでは)。
翌朝、近所の整形外科を訪ね、レントゲン画像で指の骨がポッキリいってる写真を撮らせてもらおうと強く思っていた。
その時初めて、Instagramに「#ボルダリング」を付けてレントゲン画像を載せる人の気持ちが理解できた。
長期間の不便を強いられる辛さ、登りたいのに登れないもどかしさ、登れるレベルが落ちてしまう不安。そういうモヤモヤを「折れちゃいました!」とレントゲン画像と共にSNSに流すことで、多少なりとも折り合いをつけようとしているのだろう。
“Welcome to the club!”
ふと、そういう英語のフレーズが頭に浮かんだ。
直訳すると「クラブへようこそ!」だが、ニュアンスはより自虐的で、慰めの意味も含む。
用例としては、こういう感じ。
「そろそろ小さい文字がつらい」
「君もとうとうこっち側か(“Welcome to the club!”)」
「仕事でありえないヘマをやらかした」
「私もやったことあるよ(“Welcome to the club!”)」
Instagramの向こうの人たち、私も仲間入りしますよ!と拳を(今は右手を握り込めないけど)振り上げてクラブに加わろうと決めた。
整形外科で、初診票にミミズがのたくったような字で(利き手の中指と薬指が封じられているので)症状の欄に「骨折」と書き、レントゲンを撮ってもらった。
整形外科医「折れては…ないですね」
私「???」
その場で超音波検査を受ける。
整形外科医「屈筋群が腫れてますけど、折れてはないです」
私「????? 折れてない?」
整形外科医「筋腱は損傷してると思いますけど、折れてはないです」
折れてなかった。
レントゲン画像を見せてもらったが、指の骨には何の異常もなかった。何の異常もない己の指の骨のレントゲン画像を撮る意味を見出せなかったので、撮らなかった。
診断は屈筋群の炎症と筋腱の損傷。
指の固定も必須ではなく、あえて言うなら薬指と小指を緩くテーピングするくらいで、風呂にも入れるし水仕事もできる。
決して軽い怪我ではない(腫れが引くのに2週間かかるので登れない)のだが、「骨折してます」からの「骨折してません」はさすがに感情のジェットコースターが急勾配すぎる。
感情の持って行き場が見つからず、とりあえずここに書いている。
ごめんなさい、Instagramの向こうの人たち。私まだそっちのクラブには加われません。
あと整体院の人の判断は何だったんだ?(何だったんだ?)#何だったんだ?