ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー【ネタバレ感想】

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ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー|映画/ブルーレイ・DVD・デジタル配信|マーベル公式

以下すべてネタバレです。(ふせったーからの転載)

 

ブラックパンサー/ワカンダフォーエバーのネイモア、今まで16世紀のスペインによる征服をここまできちんと非難したキャラクターがエンタメ作品にいただろうかと震えた。シュリが西洋に征服されたことのない国の王女なら、ネイモアは西洋(スペイン)に完膚なきまでに征服された国の子供だった。
ネイモアが言った『天然痘を持ち込んで、異教を押し付け、言語を奪い──』のくだりは史実で、16世紀当時、スペインの征服者たちは天然痘の保菌者(発症はしていないが感染力は備える)を船に乗せて中南米に渡ったという。免疫を持たない先住民は当然感染し、戦わずして数を減らした。そしてスペインは先住民の宗教を邪教としてキリスト教に改宗させ、神殿の上に教会を建て、根こそぎ本を燃やし、黄金の装飾品を力ずくで奪った。
現在の中南米にはカソリック教徒が多く、メキシコの首都メキシコシティーにも立派なカソリックの大聖堂が建っているが、その都市はアステカ王国の首都テノチティトランの真上に作られた。現在、メキシコシティーの街中では、掘り起こされたその神殿や遺跡を見ることもできる。(テノチティトランは、『エターナルズ』にも登場する。1521年、スペインの征服者により燃え上がり滅び行く都市を見たドルイグが他のエターナルズと袂を分つ)
焚書や掠奪により、現代に残るメソアメリカ文明に関する資料は少ない。インカ帝国では、文化の粋が込められたはずの黄金の品々のうち8〜9割はスペインによって溶かされ、金の延棒になった。いずれも、現代の先コロンブス期(マヤ、アステカ、インカなど)の研究者を悩ませる原因になっている。

現在、中南米の国々の多くが公用語スペイン語としている理由、そしてほんの500年前まで存在したはずの中南米文明がやたらと謎めいて語られ、挙句に2012年にマヤ暦が終わるから世界が滅ぶなどという終末思想として面白おかしく消費される(※マヤ暦は循環するので終わったところで最初に戻るだけ)のは、そうやって元々の宗教、言語、文化を殲滅したからだ。だから、ネイモアの「世界を燃やし尽くそう」という思想が完全に正しいとは思わないけど、故郷を文字通り燃やし尽くされたその気持ちは察するに余りある。
それでも、その言葉はあの時のシュリには届かなかっただろうと思う。二人の言う「世界」には決定的な乖離があって、ネイモアにとっての「世界」は先祖の土地と文化を奪った地上の(主に西洋の)世界→自分の外にあるもので、シュリにとっての「世界」は自分自身→彼女の中にあるものだったように思う。
シュリの「世界を燃やし尽くしたい」とは、兄を救えなかった自分を取り巻く世界、ひいては自分自身への激しい怒りで、「世界を燃やし尽くす」というのは自分を燃やし尽くすに等しい悲鳴だったのではないか。

 

・劇中、ネイモアの別名としてククルカンが出た時拍手喝采してその辺をひと回りしたかった、何よりマヤ語でククルカンってどう発音されてるのか知らなかったからああいう発音なんだなって驚いた。
劇中でネイモアが生まれたのは16世紀とあったから、彼はマヤ文明の神ククルカンそのものではない(マヤ神話の歴史はもっと遡る)けどタロカンの人たちにとっては神に近い存在なんだろうなと。
海底のタロカンの国の様子で一瞬映った、石の丸い輪っかにボール入れて遊んでたのがマヤ遺跡の球戯場にあるものと一緒で鳥肌立った。
あと海辺の近くに階段ピラミッドがあるシーンが出るけど、確かに海辺近くにマヤ文明の遺跡は実在する(「トゥルム遺跡」で検索)けど劇中みたいなガチの階段ピラミッドはない、ガチのやつはもう少し内陸にある(「チチェンイツァ」で検索)。
何にせよ、こんなにマヤ文明が丁寧に描かれてるのは初めてじゃなかろうか。ちなみに、ククルカンとケツァルコアトルは同一視されている。どちらも「羽毛の生えた蛇の神」とされ、マヤでの呼び名がククルカン、アステカでの呼び名がケツァルコアトル
ケツァルコアトル、ソー:ラブ&サンダーにも一瞬出てましたね…匂わせだったのか?(違)