【映画で学ぶ英語】エルサはありのままにレリゴーできたか〜『アナと雪の女王』

アナと雪の女王2が公開されてしばらく経つが、この記事は2作目とは何の関係もない。

1作目の方の主題歌で日本でも大大大ヒットした「レット・イット・ゴー」の話である。
レリゴー旋風が吹き荒れたのはもう何年も前だが、この「レット・イット・ゴー」というフレーズがアメリカの連続ドラマなどを観ていると本っ当に良く出て来るので記事を書いてみようと思った次第。

アナと雪の女王の主題歌「レット・イット・ゴー」には、副題が付いていた。それが「ありのままで」。

「ありのままで」は日本語版主題歌のサビにも使われ、強いメッセージとして日本の観客の心を掴んだ。

映画では、幼い頃から自分の力を人に見せることを両親に禁じられ自分の殻に閉じこもったエルサが、とうとうその力を解き放ち、氷を操って城を築く力強いシーンでエルサ本人が歌い上げる。


「アナと雪の女王 MovieNEX」レット・イット・ゴー ~ありのままで~/エルサ(松たか子)<日本語歌詞付 Ver.>

日本語版レリゴーに込められたメッセージは非常に明確だ。

私(エルサ)はもう自分を隠さない、自分の力を隠さない、私は私のままでいる。

では英語版ではどうだろう。
英語版の歌詞は、エルサが「もうこれ以上(力を)隠しておくなんて無理」と自身の解放を歌っている点においてある程度日本語版と一致しているが、その他はだいぶ違う。

どれだけ違うかは、英語版レリゴーに日本語字幕が付いたものがわかりやすい。


イディナ・メンゼルver(字幕スーパー版)「Let It Go」

日本語とのニュアンスの違いに驚かないだろうか。
英語版のエルサは、家族や国民に背を向け雪山へ逃げ、

もう力を隠してはいられない/それでも構わない/力を解き放ちどこまでやれるかやってみよう/私こそ風と空を操る者だ/善も悪もルールも知ったことか/私は自由だ(以上、拙訳)

と高らかに宣言し氷の城を築く。

サビのLet it go, let it goに当てられた字幕は、
「これでいいの かまわない」。

この日本語を「ありのままでいい」と解釈するのは自由だが、英語版エルサはそうは言っていない。
何故ならその後に、もう戻るものか/過去は捨てた!とより一層高らかに歌い上げるから。

そしてこのLet it goというフレーズ、イディオムとして辞書にも出てくる。意味は「そのままにしておく、放っておく/諦める」。
英語のドラマのどういう場面で使われるかというと、親しい人が腹を立てたり嫌な気持ちになっている時に、慰め、宥める意味を込めて言うのだ。
Let it go.と。

つまりレリゴーは、「放っとけよ/忘れろよ/水に流せ」という意味だ。間違っても「あなたはそのままでいい」という意味のつもりで言ってはいけない。喧嘩が起きかねない。
エルサは、日本語では「私はありのままでいい、このままで輝ける」と歌い、英語では「もう何もかもどうでもいい」と言い氷の城に引きこもる。
その後の展開を見るとわかるが、結果的にエルサはありのままでいる(=氷の城に引きこもる)ことを許されなかった。

そう思うと、この映画の最後は何とも苦く感じられないだろうか。