バットマンvsスーパーマン ジャスティスの誕生【ネタバレ感想②】【レックス・ルーサーについて】

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(ふせったーからの転載)

 

レックスがスーパーマンを「究極の善人」と呼んだのが驚いた。彼はスーパーマンの本質を見抜いていた。それならどうして怒っているのか?彼は「万人の神などあり得ない」と言った。

記憶(とリスニング)が確かならば、音声では「God is tribal. God takes a side.神はある種族にのみ忠実だ。神は(守るべき者)を選択している」と言ってる。つまり神は気まぐれで、誰を守るかを常に選んでいる、嫌味な言い方をすれば選り好みしている、と言ってる。だからレックスは、自分が幼い頃父親に殴られていても神は助けてくれなかったと、己に言い聞かせて来たんだろう。

突然空から現れた、圧倒的な力を持つ存在=スーパーマンをある者は神と呼び、またある者は脅威と読んだ。レックスはどう思ったのか?神と呼ばれ脅威と呼ばれる者の正体を知りたいと思っただろう。だからスーパーマンの行動を調べ上げ、地球人としての名前、育った場所、母、恋人まで知り尽くして、そしてスーパーマンは善人だという結論に達した。そして矛盾を感じたに違いない。神が善き心を持っているなら、なぜ自分が父親に殴られていた時に空から降りて来なかったのか?彼の持論に反するスーパーマンを、だからレックスは憎んだのかもしれない。

しかもクリプトナイトと言う弱点があり、それが自分の前にもたらされた。弱点のある神などあり得ない。

レックスはスーパーマンに言う。「全能の神は善人ではない」、「善人は全能の神になれない」。カンザスに住む母親を誘拐し拘束してまで、スーパーマンの善を曲げさせようとする。

レックスはスーパーマンの善人面を引っぺがして万能の神にしたかったのか、それとも神の座から引きずり下ろしたかったのか?

恐らく後者だろう。自分の考えにそぐわない偽りの神を糾弾し追い落としたかった。神が堕ちれば、悪魔になる。むしろ最初から神など存在せず、悪魔に騙されていたのだ、と思いたかったし人々にもそう思わせたかった。

レックスは、クリプトナイトを見つけたことを「東ドイツで生まれ育ちカビたパンを食べ独裁者を讃えた父の息子である己に神がこれを授けた」と言った。そしてスーパーマンを怪物と呼ぶ。つまり彼はまだ神をどこかで信じているのではないか。私には、レックスの言う"神"は父と同義なのではないかと思えた。殴られたと言いながら父の部屋を生前のまま残している。空から降って来た神は、父の姿をしていない。それどころか弱き者を助け出し、人々の希望になっている。

ブルースの抱いた妄執も、レックスのそれに近い。神が存在していたなら、何故両親が裏路地で強盗に射殺される前に、何故父親が自分を殴るその手を振り上げる前に、助けに来てくれなかったのか。

そうやって幼い自分が追い求め、裏切られた"神"がようやく現れた時、街は瓦礫と化した。そして空から現れた"神"が異星人で、素性を隠し地球のどこかにいることを知る。"神"は、世界中で危機に瀕した人々をいとも容易く救い出しては消えて行く。

あれは神なんかじゃない、脅威だ、と言い続けなければ、ブルースもレックスも、アイデンティティを保てなかったのかもしれない。

でもまだ何故、レックスがスーパーマンバットマンを戦わせたかったのかがわからない。

レックスはバットマンブルース・ウェインだと知っていて、その妄執を煽った。同じように大富豪で、"知識があるが力がない"、"切ない痛み"を知っている同じ人間のはずのバットマン=ブルースが、世にはびこる悪を潰し続けているのが許せなかった?バットマンの首を持って来いと言いながら、あわよくばバットマンがスーパーマンを殺せるかもしれない、と思ったのだろうか?

レックスがゾッド将軍の遺体に「あなたは高く飛びすぎた(You flew too close to the sun.太陽に近付き過ぎた)」と言ったのは、ギリシャ神話のイカロスのことだろうか?ドゥームズデイを作ったのは、ジェネシスチェンバーで生命体を作れるとわかったから、単純に作ってみたかったのだろうか。生命体の作製は神への冒涜だ。それこそ蝋で固めた羽根で空を飛び、太陽に近付き過ぎたイカロスそのものではないか。

幼い頃に悟った神からの裏切りに込めた怨嗟と、自分のアイデンティティと、純粋な興味。レックスはスーパーマンにそれらをすべてぶつけたかったのかもしれない。

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